
▼ 目次
1. はじめに
1.1. 記事の目的と想定読者
本記事では、JIS Q 27001とISO27001がどのように違うのか、日本企業がどちらを選べばいいか、そして導入時の要点をわかりやすく解説します。
想定読者
ISO27001取得を考えているが、日本語版(JIS Q 27001)との違いを知りたい方
すでにISO27001を運用中で、日本の規格との相乗効果を検討している担当者
セキュリティ規格の初心者で、海外規格と日本規格の違いがよくわからない方
本記事を読むことで、JIS Q 27001とISO27001の差分や、国内企業が導入するメリット・注意点を把握し、自社に合ったISMS導入を進めやすくなります。
1.2. なぜJIS Q 27001とISO27001の違いを知る必要があるのか
国内外の対応: 海外向け取引が多い企業はISO27001を重視、一方で国内市場メインならJIS版も有用
審査・認証のポイント: 細かな条文解釈や日本法規との整合を、JIS版ならスムーズに導入できる場合がある
認証証明: 「ISO27001」を持つことで国際的な信用が得られるが、「JIS Q 27001」の方が社内教育や日本語文書化に便利と感じる企業もある
1.3. 日本企業が導入するメリットと背景
メリット:
日本語による規格説明があり、国内法規や社会慣習にも寄り添う部分がある
取引先や監査の現場で、日本語ドキュメントで説明しやすい
背景: DX推進や情報漏えい事件が相次ぐ中、セキュリティ認証のニーズが高まり、日本国内向けにJIS Q 27001を検討する企業が増加
2. JIS Q 27001とISO27001の基本をおさらい
2.1. ISO27001(ISMS)とは?国際規格の概要
ISO27001(ISMS): 組織の情報資産を守るための国際的なマネジメントシステム規格。
リスク管理: 機密性・完全性・可用性を守るため、リスクアセスメント→ 運用→ 改善のPDCAを回す。
導入メリット: 社内ルールの整備や取引先からの信用アップ、サイバー攻撃リスク低減など多数。
2.2. JIS Q 27001とは?日本語翻訳版だけではない特徴
JIS Q 27001: ISO27001をベースに、日本工業規格(JIS)が独自に定めた規格。
翻訳以上の違い: 一般に「ISO27001の日本語版」と捉えられがちだが、国内法や日本の実情を考慮し、一部注釈や用語が調整されている。
コンサル経験談: 審査員とのやりとりで「JIS版の条文番号に沿って説明しやすい」ケースもあり、国内企業にとってメリット大。
2.3. ISMS導入の目的:情報セキュリティ三要素とリスク管理
三要素: 機密性、完全性、可用性
リスク管理: サイバー攻撃だけでなく、自然災害や内部不正、ヒューマンエラーなど幅広く対応
初心者ポイント: 規格導入=文書化だけではなく、現場でルールを運用し、監査で改善し続ける仕組みづくりが肝
3. JIS Q 27001とISO27001:共通点の整理
3.1. ISMSのマネジメントシステムとしての枠組み(リスクアセスメント、PDCAなど)
共通点:
リスクアセスメントで脅威と脆弱性を洗い出し、対策を適用
PDCA(Plan-Do-Check-Act)の循環で運用改善
コンサル視点: 日本企業でも海外企業でも、この基本的サイクルは同じ。JIS/ISOの違いで大きく変わるわけではない
3.2. 附属書Aの管理策における基本的な共通部分
附属書A: 組織的・人的・物理的・技術的な管理策が一覧化
実質同じ: JIS Q 27001の附属書AもISO27001を踏襲しているため、大枠は同じ管理策
審査員も: ISO版/JIS版の差異は小さいので「ISMSの基本フレームワークは共通」と考えて問題なし
3.3. 認証取得の流れ(ステージ1・ステージ2審査、サーベイランス)
ステージ1審査: 文書レビューや基本的なリスクアセスメント確認
ステージ2審査: 実地確認、社員インタビュー、運用状況の検証
サーベイランス審査: 年1回(または半年)で運用が持続しているかチェック
注意: JIS版であっても、フローや審査ステップはISO版と大差なし
4. JIS Q 27001の特徴:ISO27001とどこが違うの?
4.1. 日本独自の条文構成や用語変更点(翻訳・日本法規との関連)
独自要素: 用語の微妙なニュアンス、条文の脚注、国内法への言及がある場合がある
例: 個人情報保護法や経産省ガイドラインを参照する注釈が入っているケースも
コンサル談: 「ISO/IEC 27001の和訳版」に加えて、日本で使いやすいよう調整された部分が存在
4.2. JIS版ならではの追加的な注釈や、日本企業を想定した解説
国内法規との整合: 組織的管理策で労働法や電気通信事業法など、国内で想定されるルールを参考にする例も
翻訳スタイル: 難解な英語を訳しただけでなく、日本語の専門用語に置き換えている
メリット: 社員教育を日本語で進める際に、JIS版の文言がしっくり来ることが多い
4.3. 「実質的には同じ」だけじゃない、差分を理解する意義
誤解: “JIS Q 27001はISO27001と完全一致だから、どっちでも同じ” → ほぼ正しいが細かい違いあり
意義: 審査員とのやり取りや、国内法遵守を強調したい企業にとって、JIS版の条文を参考にするのは意味がある
海外との比較: グローバル展開を考えているならISO27001の原文ベースが使いやすい、国内で運用特化ならJIS版も便利
5. 日本企業がJIS Q 27001を採用するメリット・デメリット
5.1. メリット:日本語文書でスムーズに導入しやすい、国内法規への整合性
日本語文書: 社員向け規定や社内研修で、英語文書より理解度が高い
国内法へのマッチ: 個人情報保護法や独自ガイドラインとの関連性が比較的スムーズ
コンサル経験: 「英語に苦手意識のある中小企業が、JIS版から入って成功した例」が多々ある
5.2. デメリット(or 注意点):海外企業へのアピール度はISO27001認証の方が高い?
海外取引先: “ISO27001”の認証を要求されるケースが多い → JIS版だと「国際規格そのものか?」と聞かれる可能性
解決策: JIS認証機関がISO27001相当の認証書を発行する場合もあるが、海外取引先が理解してくれるか要確認
5.3. プロのISOコンサル視点:日本市場をメインにするならJIS Q 27001が有利?
視点: 国内限定の取引や、地方自治体・公共案件が主な企業はJIS版認証で十分
一方: 海外展開や外国企業との取引が中心ならISO27001の方が誤解されにくい
ケースバイケース: 両者の差分運用(JISとISOを並行)する企業も存在
6. 国際市場向けにISO27001を取得する場合のポイント
6.1. 「JIS Q 27001」と「ISO27001」両方が示す認証書の違いとは?
一般的には同等: 国内審査機関がISO27001の要件を満たす形でJIS版認証を出すことも
実務上: 英語表記の認証書(ISO/IEC 27001)を求める海外顧客が多い
コンサル談: 時々「JISの証書ではなくISOロゴ付きの証書を見せてほしい」と言われるケースがある
6.2. 海外顧客やグローバル展開を考えるならISO27001認証が必須?
必須というより:グローバルではISO27001の認識度が圧倒的
メリット: 海外取引先が「ISO27001なら大丈夫」と理解しやすい → 商談がスムーズ
補足: JIS Q 27001でも実質同じだが、海外がJIS認証を知らないことが多い
6.3. 二重取得は必要か?ISOとJISの差分運用はどうなる?
二重取得: 実質的にはJIS Q 27001もISO27001も要件は同じため、二重認証をする企業は少数
現実: 主にISO27001を取得し、必要に応じてJIS版の条文も参照するくらいで十分
例: 大手国内企業A社がISO27001を取得し、社内文書はJIS版をベースに運用というハイブリッド事例あり
7. よくある誤解:JIS Q 27001はISO27001の単なる日本語版?
7.1. 実は日本独自の解釈や補足が含まれる例
“単なる翻訳”:ほぼ合っているが、一部「国内法規を踏まえた注釈」などが加わる
構成: 見た目や番号はほぼ同じだが、脚注や用語が微妙に異なる場合がある
審査員対応: 日本語で問い合わせをしたい場合、JIS版は便利
7.2. 英文規格との対比で生じる細かな相違点
ニュアンス: 英語の“shall”/“should”などの強制度合いが、日本語では明確に表現されないことも
コンサル談: 例えば「~すべき」と「~を推奨する」の差が曖昧になる場合があり、審査で質問されることがある
7.3. コンサル経験談:審査員とのやり取りで注意すべきポイント
ポイント: 「ISO27001の条文番号」と「JIS Q 27001の条文番号」が同じでも微妙に言い回しが違う→ 審査段階で混乱しないよう、どちらに準拠するか明確に伝える
8. 導入の流れ:JIS Q 27001/ISO27001を効率よく進めるステップ
8.1. 現状把握とプロジェクト体制づくり(小規模企業・大企業の違い)
小規模: 担当者が兼務の場合は外部コンサル支援を活用し、短期で文書整備
大企業: 拠点・部門が多い→ プロジェクトチームを組んで段階的に進める
共通: トップマネジメントのコミットメントが重要
8.2. リスクアセスメントと文書化(日本法規や業界ルールの考慮)
例: 個人情報保護法や業界独自のガイドライン(金融、医療など)
JIS版メリット: 一部日本固有の法規を想定した脚注が参考になる
アドバイス: 必要なら業界ルールとISMSを紐づけ、審査時にアピール
8.3. ステージ1審査・ステージ2審査の進め方と、JIS版・ISO版での注意点
基本: 文書審査(ステージ1)→ 現場審査(ステージ2)→ 認証
JIS版注意: “JIS規格”での審査を依頼するか“ISO規格”での審査を依頼するか、認証機関によって扱いが異なる
まとめ: 基本的な審査プロセスは同じ。差異があれば事前に審査員に確認
9. 【事例紹介】JIS Q 27001を導入している国内企業の取り組み
9.1. 中小IT企業A社:日本語規格で社内教育を徹底 → 大手顧客との契約拡大
背景: 従業員20名程度。海外に進出予定はなく、日本語での運用効率を重視
結果: JIS Q 27001を導入し、社内規定や研修がスムーズ。大手国内顧客から「しっかりしている」と評価され受注増
9.2. 製造業B社:ISO27001英語版とJIS版の差分運用 → 海外拠点とのすり合わせ
状況: 本社は日本国内でJIS版を使い、海外工場は英語のISO27001を参照
運用: 管理策や報告書は英語と日本語の両方を用意し、グローバル会議でも説明しやすい
メリット: 国内拠点はJIS版メインで教育負担を減らし、海外拠点との整合も維持
9.3. コンサル経験談:審査員とのコミュニケーションで「JIS版」ならではの利点を感じた例
実例: 文書の用語が日本語ベースなので、社内監査~外部審査まで一貫して日本語で議論→ 意思疎通がスムーズ
注意: 海外関連が多い企業でも、日本国内の拠点審査にはJIS版を使うことが利点になる
10. JIS Q 27001運用で押さえたい、日本特有の法規や社会的背景
10.1. 個人情報保護法やNISCガイドラインとの整合性
個人情報保護法: 特に“個人データ”扱う企業は、JIS Q 27001の脚注や附属書Aで考慮しやすい
NISCガイドライン: 政府機関や公共事業で求められることがあり、JIS版での運用が噛み合うケースあり
10.2. 中小企業支援策(補助金・自治体支援)とJIS Q 27001の親和性
補助金: IT導入補助金、地方自治体のセキュリティ強化支援など→ ISMS導入費用を一部カバーする制度
JIS版: 国内向けの補助金申請で「JIS Q 27001」の運用を想定している自治体がある
10.3. 「特定情報保護」や「下請け契約」など日本ならではの留意点
下請け管理: 日本の下請け構造(多重請負)でセキュリティ責任があいまい→ 規格導入で明確化
コンサル視点: JIS Q 27001の文書例に、下請け管理の項目を追加する企業が多い
11. 認証取得後の運用・改善:年次サーベイランスと内部監査の継続
11.1. JIS版でもサーベイランス審査はISO版と同様の要領 → PDCAを回す
サーベイランス: 年1回や半年ごとに審査員がチェック→ 運用維持や改善を見る
PDCA: 文書改定やリスクアセスメントの更新→ 社員教育→ 監査→ 改善サイクルが回る
11.2. 社員教育と内部監査で形骸化を防ぎ、実務効果を高める
形骸化リスク: 取得して終わり→ 文書が放置され、現場が知らない…という失敗例
対策: 定期的に小さな研修やフィッシング演習、内部監査チームの活動報告などを続ける
11.3. 海外顧客対応や標準化団体との連携アップデート
ISO改訂: ISO27001自体のバージョンアップ(例:2022年改定)に合わせてJIS版も更新される可能性
アップデート: 規格改定時に文書を見直し、審査機関や標準化団体からの情報収集を怠らない
12. JIS Q 27001とISO27001の費用・認証コスト・ROIを考える
12.1. 審査機関の費用相場(日本国内審査 vs 国際審査)
費用差: JIS版での審査費用とISO版での審査費用は、認証機関や企業規模によって異なる
相場: 小規模~中小企業なら数十万~100万円前後の審査費用が目安(内部リソース次第で増減)
12.2. 文書整備や内部リソース、コンサル依頼などのコスト内訳
内訳:
コンサル費(短期取得のための文書・監査支援)
社内稼働(プロジェクトチームの人件費)
審査費(ステージ1・2+サーベイランス)
コンサル談: 大企業ほど部門横断コストがかかり、中小企業ほど担当者の兼務負荷が課題
12.3. 投資対効果:顧客信頼、リスク回避、契約獲得のメリット
メリット例:
大手企業と新規契約(セキュリティ要件を満たしている証明)
情報漏えい事故の防止→ 損害賠償や株主対応のリスクを回避
社内のセキュリティ意識向上→ 業務効率化
13. Q&A:JIS Q 27001 vs ISO27001に関する疑問
13.1. 「JIS Q 27001だけ取ればグローバル展開は不利?」
回答: 必ずしも不利ではないが、海外の取引先や監査側が“JIS”を理解していない可能性大→ コミュニケーションに注意
対策: 必要に応じてISO27001として認証書を発行する方法や、英語の追加書類を用意する
13.2. 「ISO27001しか認めない取引先がある場合、JIS版は通用しない?」
回答: 多くの認証機関は「ISO27001とJIS Q 27001の両方で同等」と説明するが、取引先が厳格にISOロゴを求めることも
事例: 海外子会社との契約で「JIS認証書ではNG」と言われたケースあり→ ISO27001認証書を発行して対応
13.3. 「今後の改訂やバージョンアップで日本独自要素はどうなる?」
回答: 原則、ISO27001が改訂されると少し遅れてJIS Q 27001にも反映→ 日本独自要素は維持されつつ、国際規格に準拠
コンサル談: 大幅に乖離する可能性は低いが、タイミングのズレで更新作業が増えることがある
14. まとめ:JIS Q 27001とISO27001の違いを理解して、最適なISMS導入を進めよう
14.1. 記事の要点総括:日本語規格の特徴、国際規格との比較、導入のメリット
JIS Q 27001: ISO27001をベースに日本の法規・慣習を踏まえ、文書が日本語でわかりやすい
ISO27001: 国際的に広く認知され、海外取引先との契約に有利
どちらも同じISMSの枠組みだが、微妙な違いを理解して運用を選択するとスムーズ
14.2. 国内企業が知っておくべき実務ポイント(法規・審査員対応など)
国内法との整合: 個人情報保護法や業界ガイドラインに合わせやすい
審査機関: 日本語でやり取りしやすい分、導入・維持コストが抑えられるケースあり
海外対応: もし国際ビジネスを考えているなら、ISO27001の英語版認証も検討
14.3. 結論:自社のビジネス範囲に合わせた選択や二重取得も検討を
国内重視: 主に国内向けの取引で、社員教育や社内研修を円滑に進めたい→ JIS Q 27001も十分
グローバル展開: 海外顧客や子会社があるならISO27001認証で国際的にも通用させる
最終メッセージ: まずは自社のリスクと顧客要求を整理し、最適な規格でISMSを導入してみましょう
15. 参考リンク・関連情報
ISO/IEC 27001公式サイト / JIS Q 27001原文へのリンク
ISO Official / JSA(日本規格協会)
認証機関・コンサル会社の解説ページ
LRQA, BSI, JQAなどでJIS版とISO版の違いを案内
国内法やガイドライン
個人情報保護法、NISCガイドライン、経産省セキュリティ関連文書
おわりに
JIS Q 27001とISO27001は、**情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)**としてほぼ同じ枠組みを共有しながら、日本企業に合わせて翻訳・注釈されたかどうかの違いがあります。
国内重視の場合: 日本語規格(JIS Q 27001)を採用し、社員教育や国内法との整合を取りやすくする
海外取引メインの場合: ISO27001の英語版認証が国際的に分かりやすい
いずれにしても、ISMS導入の基本は「リスク管理」「文書化」「内部監査」であり、PDCAサイクルを回して継続的にセキュリティレベルを高めることがポイントです。自社のビジネス範囲に応じてJIS Q 27001とISO27001の差分を上手に活用し、最適なISMS導入を進めてみてください。
この記事の監修者情報
金光壮太 (ISOコンサルタント)
大手商社にて営業を経験した後、ISOコンサルティングに従事。ISO9001、14001、27001を中心に、各業界の課題や特性に応じたシステム構築や運用支援を行い、企業の業務効率化や信頼性向上に貢献。製造業や建設業など、多岐にわたる業界での豊富な経験を活かし、お客様のニーズに応じた柔軟なソリューションの提案を得意としている。
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