
▼ 目次
1. はじめに
1.1. 記事の目的と想定読者
本記事では、ISO27001(ISMS)とISO27017の違いをわかりやすく整理し、これからISOを取得したい方に向けて、クラウド時代に必要なセキュリティ対策を解説します。
想定読者
- これからISMS(ISO27001)を導入・運用したい企業の担当者
- すでにISO27001認証を取得しているが、クラウド利用拡大でISO27017も考え始めているIT部門リーダー
- セキュリティ初心者だけど、クラウドセキュリティの基準を簡単に理解したい方
1.2. ISO27017・ISO27001の違いを学ぶメリット
クラウド特化:ISO27017はクラウド特有のリスクに着目し、ISO27001ではカバーしきれないポイントを補完
導入効果:顧客や取引先に対して「クラウド利用も安全に運用している」ことを示せる
実務最適化:開発や運用の現場で、クラウドのセキュリティ要件を明確にでき、トラブル減少やコスト削減にもつながる
1.3. クラウド時代に両規格が注目される背景
クラウド活用が当たり前になりつつある今、サーバーを自社で持たない企業が増加。
責任共有モデル(クラウドプロバイダと利用者のセキュリティ責任範囲)は理解が難しく、漏れが生じやすい。
従来のISO27001だけだとクラウドならではのリスク管理が不十分なケースがあり、ISO27017が注目される。
2. ISO27001の基礎:情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)の全体像
2.1. ISO27001(ISMS)とは?その狙いと導入メリット
ISO27001とは:組織の情報資産を管理し、機密性・完全性・可用性を維持するための国際規格。
導入メリット
取引先・顧客の信頼度向上:「セキュリティ対策がしっかりしている企業」と見られる
リスク低減:サイバー攻撃や内部不正、災害によるシステム停止など様々なリスクに対応
組織内のルール整備:ドキュメント化や内部監査を通じて運用が標準化・改善される
2.2. リスクアセスメントの考え方(機密性・完全性・可用性)
機密性:情報が勝手に閲覧・流出しないよう守る
完全性:情報が改ざんや誤操作で破壊されないよう守る
可用性:必要なときに情報資産を利用できるよう維持する
プロのコンサル視点:クラウド時代はこの“可用性”が特に重要。クラウド障害・ネットワーク遮断に備える仕組みが必須
2.3. 附属書Aの役割と管理策の概要
附属書A:組織的・人的・物理的・技術的な管理策がズラリと並んだ“リスト”
私の経験談:導入企業はこの中から自社のリスクや事情に合わせて適用策を選択。審査員は「なぜ使う/使わない?」を確認し、十分かどうかを評価する
2.4. 取得までの流れ(ステージ1・2審査、サーベイランス)
ステージ1(文書審査)
方針や手順書が整備されているか?運用設計が妥当か?
ステージ2(現地審査)
実際に手順が守られているか、社内インタビューや記録確認
サーベイランス審査(毎年 or 半年)
継続運用の確認、改善点のフォローアップ
3. ISO27017の基礎:クラウドセキュリティに特化した追加要求事項
3.1. ISO27017が生まれた経緯と目的
背景:クラウドサービス(IaaS/PaaS/SaaS)の普及で、従来のISO27001だけではカバーしにくいリスクが増加
目的:クラウドプロバイダと利用者のセキュリティ責任を明確化し、適切な管理策を標準化する
3.2. “クラウド特有”のリスクとは?(責任分界点、マルチテナントなど)
責任分界点:利用者側が「OSやアプリケーションレベル」、プロバイダ側が「ハードウェアや仮想化層」を管理するなど役割が複雑
マルチテナント:同じ物理サーバーを複数顧客が共有→ データ混在や設定ミスで情報漏えいが起きる可能性
移動性:クラウド移行や別サービスへの切り替え時、データ消去や移行後セキュリティ確保が難しい
3.3. ISO27017の対象範囲:プロバイダ・顧客双方に対する考え方
プロバイダ視点:データセンター物理セキュリティ、仮想環境の分離
顧客視点:利用者側のアクセス制御やログ管理、契約時のSLA(サービスレベル合意)
コンサル経験談:企業がクラウド移行する際、ISO27017をベースにプロバイダとの契約書を作ると要件明確化がスムーズ
3.4. クラウド導入のメリット・デメリットとISO27017の役割
メリット:柔軟な拡張性、コスト最適化、災害時の事業継続性の向上
デメリット:ネットワーク障害・共有環境のリスク・ベンダーロックイン
ISO27017の役割:こうしたデメリットを最小化し、安全にクラウドを活用するためのガイドライン
4. ISO27001 vs ISO27017:共通点と相違点をわかりやすく整理
4.1. コモン部分:ISMSの基本フレームワークと管理策
両方とも:リスクアセスメントを行い、組織全体で情報保護を徹底するという枠組みは共通
マネジメントの仕組み:文書化、内部監査、トップのコミットメントなどは同様
4.2. ISO27017で追加されるクラウド特有の管理策一覧
クラウドサービス契約管理:SLAにセキュリティ要求や監査権限を明記
クラウド環境監視・ログ管理:マルチテナント環境の操作ログを可視化
データ分離:仮想化技術やID管理を使い、他顧客データと混合しないようにする
4.3. 規格要件の差分(認証範囲・審査時のチェックポイント)
ISO27017は追加規格:ISO27001の認証がベースとなり、クラウド固有の要件を追加認証
審査チェックポイント:プロバイダと利用者の責任分担を契約上どう定義しているか、クラウド上の運用手順が整備されているか
4.4. 「ISO27001だけで十分?」と思われがちな背景とISO27017の補完関係
誤解:ISO27001取得企業でもクラウドリスクが漏れてしまう場合あり
補完関係:ISO27017は「クラウド固有の管理策」をカバー→ 両方そろえることで社内外に対して“クラウドセキュリティも完璧”とアピールしやすい
5. クラウド時代に求められるセキュリティ対策とは?
5.1. クラウドサービス利用における責任共有モデル(IaaS/PaaS/SaaS)
IaaS(インフラ as a Service):ハードウェア等はプロバイダ管理、OSやアプリは利用者が管理
PaaS:OSやミドルウェアもプロバイダ管理→ コードやデータは利用者管理
SaaS:アプリケーションもプロバイダ管理→ 利用者はID・パスワード管理やデータ設定が中心
ISO27017視点:この責任区分を誤ると漏れが生じるため、規格で契約・手順を明示
5.2. アクセス制御・データ暗号化などISO27017が強調する管理策
アクセス制御:クラウド管理コンソールへの多要素認証、ログインアラート
データ暗号化:サーバーサイド暗号化、SSL/TLSや鍵管理(KMS)での安全化
コンサル経験談:ある企業はAWS上ですべて暗号化をONにし、鍵をHSM(ハードウェアセキュリティモジュール)で管理→ 審査で高評価
5.3. DevSecOpsやコンテナセキュリティなど最新動向との関連
DevSecOps:開発と運用を連携させつつセキュリティも取り込むスタイル→ ISO27017はクラウド環境のCI/CDパイプラインに必要なルールを補強
コンテナセキュリティ:マルチテナントで動くコンテナ群の脆弱性スキャンやアクセス制御も、ISO27017のガイドラインが参考になる
6. 【事例紹介】ISO27017を取得している企業のクラウド活用例
6.1. クラウドプロバイダA社:自社サービスにもISO27017認証を取得した理由
事例: 大手クラウドプロバイダがISO27017を取得→ サービス利用企業がクラウド導入しやすくなる
コンサル視点: 「プロバイダ自身がISO27017認証」を取っている場合、利用者企業の審査も円滑(責任範囲が明確)
6.2. 顧客企業B社:ISO27001との統合審査でクラウド導入の安心感UP
背景: クラウド環境でシステム運用を拡大→ 取引先からの「セキュリティ大丈夫?」という不安に対応
取り組み: 既存のISO27001+ISO27017認証を追加取得→ クラウド移行の正当性を可視化
効果: 新規大手顧客の受注に繋がり、「クラウドでも安全」と評価された
6.3. プロのISOコンサルタント視点:取得後の社内改革や取引先へのアピール効果
私の経験談: ISO27017を追加取得した企業は「クラウド運用ルールが体系化」され、社内混乱が減った
取引先: 「自社データがクラウドに置かれても安全」と安心し、大規模契約やグローバル展開がスムーズ
7. ISO27017認証取得の流れ:ISO27001所有企業がプラスする場合
7.1. ギャップ分析と差分管理策の整備
ステップ: まず既存のISO27001文書や手順とのギャップを洗い出し、クラウドに不足する管理策をリストアップ
コンサルアドバイス: 「責任分界点を契約書で定めていますか?」「クラウド環境のログ保管は?」などチェックリストを作り、差を埋める
7.2. 追加で求められる文書・手順書(クラウド監視ログなど)
例:
クラウド運用マニュアル(AWS/Azure/GCPなど環境ごとにアクセス制御手順)
ログ閲覧・監視手順書(管理コンソール操作ログの保存・レビューサイクル)
注意: 文書化だけでなく、社員が実際に運用できる仕組みを作るのが大事
7.3. ステージ1・2審査での注意点とスケジュール感
ステージ1: 追加されたクラウド管理策を文書で確認
ステージ2: 実際にクラウド設定や監視運用を見て、運用記録をチェック
私の経験談: ISO27001既取得企業なら数か月追加でISO27017の審査までこぎつけるケース多し
8. ISO27001だけで本当に大丈夫?ISO27017導入によるメリットを再確認
8.1. クラウド環境の可用性・安全性が高まる(責任分担の明確化)
背景: どこまでがプロバイダ責任、どこまでが自社責任か曖昧だと事故が起きても責任所在が不透明
ISO27017: 追加管理策で責任範囲をしっかり明示→ 短時間で対応・復旧がしやすい
8.2. 顧客や取引先からの信頼度向上(クラウドセキュリティの証明)
セールスポイント: 「うちはISO27001だけじゃなく、クラウドセキュリティ特化のISO27017も取得済み」と言える→ ITリテラシーの高いクライアントには大きなアピール
効果: 入札や契約締結時に評価が上がる
8.3. 社内でのルール周知や教育がしやすくなる事例
実務例: 開発チームがクラウドリソースを勝手に立ち上げないよう、ISO27017のルールを社内標準として導入
結果: 無駄なリソース課金やセキュリティ漏れが激減し、コスト削減・安全性向上を同時に実現
9. 初心者向けQ&A:よくある疑問とプロのアドバイス
9.1. 「ISO27017の取得コストや期間はどれくらい?」
回答: 規模やコンサル活用度合いによるが、小~中規模ならISO27001を持っていれば数十万~百万円程度、数か月で取得可能
私の経験談: ISO27001未取得なら先にISO27001→ 追加でISO27017をやる方がスムーズ。まとめてやる企業もある
9.2. 「小規模企業やスタートアップでも導入価値はある?」
回答: クラウド活用が主流な企業ほどISO27017の適用価値は高い。取引先の信頼確保や情報漏えい対策がしやすくなる
実例: スタートアップC社がクラウド中心にサービス提供→ ISO27017取得で大手企業との提携がスムーズに
9.3. 「ISO27001なしでいきなりISO27017は可能?両規格の関係性」
回答: ISO27017はISO27001の追加規格なので、単体認証は極めて稀。現実的にはISO27001を取得→ ISO27017を追加が一般的
理由: ISO27017が前提とするISMSのフレームワークがISO27001だから
10. まとめ:クラウド時代こそISO27017をプラスして万全のISMSへ
10.1. 記事の総括:ISO27001とISO27017の違いと補完関係
ISO27001: 情報セキュリティ全般の国際基準
ISO27017: クラウドに特化した追加要求事項→ 責任共有モデルや仮想化環境の管理策が重視
補完関係: ISO27001で基盤を作り、ISO27017でクラウド運用を強化するのがベスト
10.2. これから取得する人へのポイント(リスクアセスメント、社内教育)
リスクアセスメントで“クラウド固有のリスク”を忘れずに洗い出す
社内教育:開発者や運用担当にクラウド管理ルールを徹底させ、不用意な設定ミスを防ぐ
10.3. 今後の展望:クラウド活用が進むほど、ISO27017の重要性が高まる
DX(デジタルトランスフォーメーション)の加速:クラウドなしではビジネス効率を保てない時代
セキュリティ事故防止と対外アピール:ISO27017は「クラウド安全宣言」としても機能
最終的なメッセージ:クラウド時代こそISO27017で万全のISMSを構築し、安心と信頼を手に入れましょう!
11. 参考リンク・関連情報
ISO/IEC 27001 / ISO/IEC 27017 公式サイト / 認証機関
BSI, LRQA, JQAなどでクラウドセキュリティに関する資料提供
クラウドセキュリティアライアンス(CSA)
ベストプラクティスやホワイトペーパーが多数
補助金・支援制度
中小企業向けのセキュリティ対策補助金を自治体や経済産業省が提供している場合あり
おわりに
ISO27001は、企業の情報セキュリティ全般を管理するISMSの国際基準。そこにクラウドセキュリティ特化の管理策を盛り込んだのがISO27017です。
クラウド特有のリスク(責任分界点、マルチテナントなど)に対応し、ITインフラを柔軟かつ安全に運用できるのが最大のポイント。
ISO27017をプラスすれば、取引先や顧客への信頼度がさらに上がり、社内運用でもルール化が進むため、トラブルやコストを大幅に減らせます。
これからクラウド活用を進める企業は、ぜひISO27001+ISO27017の二段構えを検討してみてください。セキュリティ事故を未然に防ぎ、ビジネスチャンス拡大にも繋がるはずです。
この記事の監修者情報
金光壮太 (ISOコンサルタント)
大手商社にて営業を経験した後、ISOコンサルティングに従事。ISO9001、14001、27001を中心に、各業界の課題や特性に応じたシステム構築や運用支援を行い、企業の業務効率化や信頼性向上に貢献。製造業や建設業など、多岐にわたる業界での豊富な経験を活かし、お客様のニーズに応じた柔軟なソリューションの提案を得意としている。
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