
▼ 目次

1. はじめに
1.1. 記事の目的と想定読者
本記事では、気候変動が企業の情報セキュリティリスクとしてどのように関わるかを解説します。
想定読者:
これからISMS(ISO/IEC 27001)を導入・運用し、リスク管理を強化したい企業担当者
自社のBCP(事業継続計画)を考えるうえで、気候変動リスクも視野に入れたい方
「自然災害や環境リスクもISMSで対応できる?」と疑問を抱えている初心者
本記事を読むと、気候変動リスクをどのようにISMSに取り込めば良いか、その具体的手順やメリットがわかり、企業価値の向上や事故防止にもつなげられるヒントを得られます。
1.2. なぜ「気候変動」がISMSの範囲になるのか?背景と重要性
近年、台風や豪雨などの自然災害の頻度・規模が拡大し、ビジネスの停滞や物流障害などの環境リスクが増えています。
ISO/IEC 27001では、情報資産を守るために幅広いリスクを想定し、継続的に対策することが求められています。
コンサル経験談: 「自然災害はITトラブルだけの問題じゃない」と思われがちですが、実際にはサーバールームの浸水対策、拠点の被災、従業員の安全確保など、ISMSの視点から考慮すべきポイントが多いです。
2. ISMSと気候変動リスク:まずは基本をおさえよう
2.1. ISMS(ISO/IEC 27001)の考え方とリスク管理のフレームワーク
ISMSは、企業の情報資産を機密性・完全性・可用性の3要素(CIA)で守るため、リスクアセスメント→対策→監査→改善のPDCAを回す国際規格です。
機密性: 情報が無断で漏えいしない
完全性: 情報が改ざんや破損されない
可用性: 必要なときに情報にアクセスできる
2.2. “情報セキュリティ”と“環境リスク”が交わるポイント
自然災害によるIT設備へのダメージ: サーバー浸水や停電でシステムが停止 → 可用性が失われる
物流障害で外部ベンダーとのやり取り停止: サプライチェーン全体が混乱 → 重要情報が滞る
BCP(事業継続計画): 災害時にも最低限の情報保護と稼働を維持する仕組みはISMSの運用とも深く関連
2.3. コンサルタント視点:従来のITリスクだけでなく気候変動が注目される理由
背景: 気候変動により豪雨や熱波が増え、ITインフラやオフィス設備へのリスクが高まり、過去の対策が通用しなくなる
業界動向: ESG投資やSDGsの観点から、環境リスクに配慮している企業ほど評価が高まる傾向あり
3. 気候変動もISMSで扱うべき理由:企業が直面する環境リスクの現状
3.1. 台風・豪雨など自然災害による拠点・データセンター被害
具体例: 強烈な台風でデータセンターの水害対策が不十分だった→長期ダウンし業務停止
対策: 高所設置、水害マップ確認、二重化ネットワークなど
3.2. 気温上昇による設備トラブルや作業効率低下
例: 熱波で空調が故障し、サーバー室が高温に→ハードウェア故障リスク
運用: 定期メンテ・モニタリング・冗長化された空調設備などをISMSリスクとして考慮
3.3. サプライチェーン混乱(原材料・物流網への影響)
事例: 物流拠点が集中する地域で豪雨被害→ 部品や製品が届かず生産停止
ISMS連携: 取引先や外注先との情報共有ルール、BCP連動の協力体制が必要
3.4. 企業イメージとステークホルダーの期待(ESG投資など)
重要: 気候変動対策を怠る企業は投資家や取引先から敬遠される流れ
コンサル見解: ISMS運用で“リスク管理体制がしっかりしている”とアピールできれば、環境リスクにも強い姿勢を示せる
4. 【具体例】気候変動とISMSでの環境リスク管理の実態
4.1. データセンター浸水リスクとバックアップ体制の整備
例: 海抜の低い土地にあるサーバールームが冠水→業務システムが全滅
対策: 高台・他地域へのDRサイト(ディザスタリカバリ拠点)確保、クラウド二重化
4.2. 停電・断水などインフラ障害への備え(UPSや非常電源、遠隔勤務)
事例: 大規模停電で社内LANダウン→VPN経由の遠隔作業がキーに
ISMS連動: 可用性確保策として非常電源(UPS)導入や社外からの安全なアクセス手段を定義
4.3. 国際取引き企業での物流網寸断リスクとBCP(事業継続計画)対応
背景: 異常気象で港湾や空港が閉鎖→物流麻痺、IT機器や部材が調達困難
実務: ISMSのリスクアセスメントでサプライチェーンを加味し、複数ルート確保
4.4. 災害時における従業員安否確認と遠隔勤務セキュリティ対策
リアル: 大規模災害下で社員が出社できない → 在宅勤務やクラウド利用のセキュリティ確保が必要
例: パソコンのデータ暗号化、VPN接続ルール、遠隔会議ツールの利用

5. 気候変動リスクをISMSに組み込むための手順:リスクアセスメントと環境対応策
5.1. 情報資産の洗い出しと“気候要因”を組み合わせた脅威・脆弱性評価
手順: 通常のIT資産一覧(サーバー、ネットワーク、文書)に“自然災害リスク”を加味してスコア算出
事例: “浸水リスク(高)、停電リスク(中)、道路寸断(低)”のように評価し、優先度を決める
5.2. 「機密性・完全性・可用性(CIA)」の観点で自然災害を考える
可用性: 災害で設備停止→業務ダウンが最も危険
機密性: 避難中のPCや書類の紛失・盗難
完全性: 災害時の誤操作やデータ破損
5.3. リスク対応(排除・低減・移転・受容)の具体例:保険活用や拠点分散など
排除: 拠点移転など、リスクそのものを回避
低減: バックアップ強化、建物の防水対策、DRサイト
移転: 保険加入やアウトソース
受容: 可能性が低いものはコスト対効果から受容
5.4. 経営層の判断とリソース配分(予算・人員・パートナー連携)
コンサルの視点: 自然災害対策はコストが高めだが、被害額を示すとトップが理解しやすい
連携: 外部の建築会社やクラウドベンダーと協力し、早めに施策を導入する
6. 事業継続計画(BCP)とISMSを連動させるメリット
6.1. BCPの概念:災害・緊急事態でも事業を止めない仕組み
定義: 台風や地震などで通常業務が困難になっても、重要業務を最低限維持するための計画
ポイント: 従業員安否確認、代替オフィス、ITシステム復旧手順などを明文化
6.2. ISMS運用とBCPを一体化:災害時の情報保護と稼働確保
事例: ある企業ではISMSマニュアルにBCP要素を組み込み、緊急時のITシステム復旧手順を連動
効果: 災害時もセキュリティを保ちつつ、サービス停止を最小限に
6.3. 他社事例:自然災害が多い地域でBCP+ISMSを統合してリスク低減に成功
実例: 沿岸部に拠点を構える製造業が、津波リスクに備え高台にDRセンター設置→ ISMS審査でも高評価
コンサル論: BCPをISMSに連動させると、書類や運用が一元化し運用負担も減る
7. 社内で形骸化させない!気候変動リスクへの対策を継続する運用ポイント
7.1. 定期的なリスクレビュー(年次サーベイランスや内部監査での確認)
方法: 毎年のサーベイランスや内部監査計画に「気候変動リスク項目」を入れ、変更点を洗い出す
メリット: 社内の意識が常に更新され、大幅なトラブルを未然に防ぐ
7.2. 社員教育と意識向上:災害時の行動指針や遠隔勤務のセキュリティ注意点
例: 雨が激しい日に在宅勤務に切り替える際、どうやってVPNに接続するか、どのルールを守るか
重要: 災害時は混乱が起きやすい→事前シミュレーションや簡単な訓練が有効
7.3. 経営陣のコミット:環境リスクを経営判断に組み込む重要性
コンサル視点: トップマネジメントが「自然災害対策もISMS運用の一環」と理解し、予算確保や優先度を付けることが欠かせない
8. 成功事例:ISMSに気候変動リスクを組み込み経営を強化した企業
8.1. IT企業A社:データセンターの集約と冗長化で浸水リスクを回避
背景: 沿岸部にあったデータセンターが毎年台風被害の懸念
対策: 高台にDRセンターを設け、複数地域でバックアップ→ ISMSの可用性要件を満たす
成果: 年次サーベイランス審査でもリスク低減策として評価され、顧客からの信頼度UP
8.2. 製造業B社:暑熱対策と電源確保をBCPに落とし込み、ISMS監査でも高評価
詳細: 夏の猛暑で生産ラインが止まらないよう工場空調やUPSを拡充
リンク: 事業継続と情報保護の両面を統合→ 災害時でもシステムと生産が止まらず、2年間不適合ゼロ
8.3. コンサルタント視点:成功企業に共通する「早めの環境リスク分析」と「社員参加型の改善プロセス」
共通項: 経営が率先して「環境リスク」をリスクアセスメントに明確化、社員が現場の知恵を出す流れ
効果: 従業員全体が「自然災害時にも守るべき情報資産」を意識する
9. 失敗例:気候変動リスクを軽視して被害を拡大させたケース
9.1. 大雨でサーバールームが冠水、バックアップも不備で長期停止
背景: 地下フロアにサーバーを置き、排水設備も不十分
結果: 数日間業務停止→ 顧客問い合わせ対応も止まり、信用失墜
学び: 立地選びやバックアップを軽視し、ISMS範囲をIT上の論理リスクだけに留めていた
9.2. 電力需給逼迫による計画停電への未対応でオンライン業務が止まったIT企業
原因: 電力緊急予報を想定せず、UPSも短時間用しかなかった
影響: 長時間停電によりサーバーダウン、データ破損リスクも発生
コンサル談: ISMSの可用性確保を「IT障害」だけで考えると自然エネルギー問題を見落としがち
9.3. 教訓:ISMSの範囲をITリスクだけに限定すると見落としが生まれる
最終: 環境リスク=「緊急度が低い」と誤解する企業は多いが、実際には大きな被害を出す可能性がある

10. 今後の気候変動とISMSの融合:環境リスク管理がもたらすビジネスチャンス
10.1. ESG投資やサステナビリティ評価との連動
説明: 投資家が「環境リスク管理をどれだけ実践しているか」を評価→ ISMS+BCPの充実度が企業評価に直結
事例: 大手取引先が「ESG対応している企業のみ優先発注」という方針を打ち出す場合も
10.2. グローバル企業や顧客からの要求(サプライチェーンの環境要件)
例: 海外取引先が「自然災害時の対応策」を契約に盛り込むよう要求
ISMS活用: リスクアセスメントに環境要因を含めた文書を示すと交渉もスムーズ
10.3. コンサル見解:気候変動対応をISMS運用に組み込むことで企業価値が向上
本質: 情報保護と環境リスク管理を一体化→ “強い企業”として市場や従業員、投資家からの信頼を得られる
11. 具体的な導入ステップ:ISMSで気候変動リスクを管理するには
11.1. Step1:気候関連脅威をリスクアセスメントに明記
手法: 地域の災害リスク情報や気象庁のデータなどを参照→ 予想確率×被害度合いでスコア算出
結果: “高リスク”の対策を優先する
11.2. Step2:BCP・DR(ディザスタリカバリ)対策と連携
実例: データセンターやITシステムを冗長化し、遠隔拠点にバックアップを置く
ISMS運用: マニュアルや手順書に災害時の操作手順を明記し、社員へ周知
11.3. Step3:社員教育や演習(災害想定シミュレーション)をISMS内部監査で確認
演習: 台風直撃シナリオ、停電シナリオなどを実際に想定し、ISMS委員会で検証
内部監査: この演習結果を踏まえて不足点を洗い出し、継続的に改善
11.4. Step4:年次サーベイランスで継続的に改善・経営層への報告
流れ: サーベイランス審査時にリスク評価表や対策実施記録を提示→ 改善点を次年度に反映
コンサル視点: 経営層が必要予算をしっかり確保すれば、継続的に強化できる
12. 専門用語解説:環境リスク、災害想定、DRサイト、BCP、CIAトライアングル など
12.1. 環境リスク:気候変動による自然災害・インフラ障害など
例: 台風、豪雨、熱波、海面上昇など。近年増加傾向
注意: ITリスクに加え、施設・人材・サプライチェーンが影響を受ける
12.2. 災害想定:どの程度の規模で、どんな被害が起こるかをシミュレーション
ツール: 防災科研や気象庁のハザードマップなど
ISMS連動: リスク評価表に災害想定を加味してスコア化
12.3. DRサイト(Disaster Recovery Site):メイン拠点が使えない際に代替するIT拠点
役割: メインサーバーがダウンしても業務を継続できる
構成: 地理的に離れた場所でネットワークや機材を冗長化
12.4. BCP(Business Continuity Plan)
説明: 大規模災害や緊急事態でも事業を途切れさせないための計画
ISMS連携: BCPに書かれた緊急時手順をセキュリティ運用規程に組み込む
12.5. CIAトライアングル(機密性・完全性・可用性)
気候変動との関連: 主に“可用性”を脅かすリスクが大きいが、二次的に機密性や完全性も侵される
13. Q&A:ISMS × 気候変動リスクに関するよくある疑問
13.1. 「気候変動とISMSは別のISO規格(14001など)じゃないの?」
回答: ISO14001は環境マネジメントが主眼だが、ISMSは情報資産保護が主眼。ただし気候変動が情報資産を脅かすリスクならISMSの範囲に含めるべき
実例: 14001と27001を統合運用している企業もあり、両面のリスクを同時に管理
13.2. 「災害保険や火災保険があれば十分では?」
実務: 保険は“損害を補償”するだけで、業務停止の機会損失や信用失墜リスクは防げない
ISMS: そもそも稼働を止めない体制構築が大事
13.3. 「クラウド化したら気候リスクは無関係になる?」
注意: クラウド事業者自身が災害を受ける場合あり(データセンター立地の問題)
対策: SLA(サービスレベル合意)や地理的冗長化のオプションを契約しているか確認
13.4. 「ISMS監査で気候変動リスクが具体的に問われる事例ってある?」
実例: サーベイランス審査で「自然災害リスクのリスクアセスメントが不十分」と指摘されたケース。BCP連携不足が不適合に発展
14. まとめ:気候変動もISMSの範囲に含め、環境リスクとセキュリティを一体で管理しよう
14.1. 記事のおさらい:具体例や対策の要点
自然災害や環境変化が情報セキュリティに影響する
ISMSのリスクアセスメントで気候変動要因も評価し、BCPと連動
社員教育や内部監査を継続的に行い、形骸化を防ぐ
14.2. セキュリティリスクだけでなく環境リスクも視野に入れた包括的運用
メリット: 企業の可用性(業務が止まらない)を確保し、自然災害に強いレジリエンスを獲得
補足: ISMSに気候変動リスクを統合すれば投資家や取引先からの信用度もアップ
14.3. 企業を守り、社会的信用を高めるISMSと環境対応の融合
結論: これからの時代、気候変動を無視するリスクは大きい。ISMS運用を軸にBCPや環境リスク対策をセットで考えることで、企業を強くし、社会からの評価も高まります。
15. 参考リンク・関連情報
IPCCレポートや環境省の気候変動情報
環境省 などで最新の気候リスク情報
ISO/IEC 27001公式サイト / 認証機関のリスク管理事例
BSI, LRQA, JQA など
自治体や商工会議所の防災・環境対策支援制度
中小企業向け補助金や相談窓口がある場合あり
おわりに
気候変動がもたらす災害やインフラ障害は、情報セキュリティの脅威にも直結する重大なリスクです。
ISMSのリスク管理プロセスに環境要因を織り込み、**BCP(事業継続計画)**と連動させることで、災害下でも情報資産を守り、業務停止を最小限にすることが可能。
今回紹介した具体例や導入ステップを参考に、自社のリスクアセスメントに気候変動要因を加え、可用性を高める対策を進めてみてください。
結果的に、企業の信頼度や投資家からの評価も上がり、持続可能な成長につながるはずです。ぜひ、今すぐ“環境リスク+ISMS”の視点で次のアクションを始めましょう。

この記事の監修者情報
金光壮太 (ISOコンサルタント)
大手商社にて営業を経験した後、ISOコンサルティングに従事。ISO9001、14001、27001を中心に、各業界の課題や特性に応じたシステム構築や運用支援を行い、企業の業務効率化や信頼性向上に貢献。製造業や建設業など、多岐にわたる業界での豊富な経験を活かし、お客様のニーズに応じた柔軟なソリューションの提案を得意としている。
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