
▼ 目次
1. はじめに
1.1. 記事の目的と想定読者
本記事では、ISMS(ISO/IEC 27001)を導入・運用したい企業向けに、「情報セキュリティ方針」をどう作ればよいかをゼロからわかりやすく解説します。
想定読者:
初めてISMSに取り組む担当者や、中小企業の経営者
「方針」と聞くと難しそうで、どこから手を付ければいいかわからない方
実際に使えるテンプレートや具体例を知りたい方
この記事を読むと…
「情報セキュリティ方針」の必要性や作り方の流れが理解できる
リスクアセスメントや社内浸透のポイントがつかめる
ダウンロードしてすぐ使えるテンプレートを入手できる
1.2. 情報セキュリティ方針がISMS導入で果たす重要な役割
ISMSを運用する際、情報セキュリティ方針は企業が「何を守り、どんなリスクを下げ、どんな行動を取るのか」をはっきり示す最上位の文書です。これが曖昧だと、社員がどう動いてよいか分からず、セキュリティ体制が形だけになりがち。
コンサル経験談: 方針が明確な企業ほど、運用がスムーズに進み、外部審査でも高評価を受けるケースが多いです。逆に、「方針は経営層が一度サインしただけ」で放置されると、現場でのセキュリティルールがバラバラになりがちです。
2. ISMS(ISO/IEC 27001)と情報セキュリティ方針の基本をおさえよう
2.1. ISMSとは?初心者向けのやさしい用語解説
ISMS(Information Security Management System): 企業の情報資産を守るための仕組みを作り、継続的に改善していくシステムを指します。
ISO/IEC 27001: 国際規格として、情報セキュリティを管理するフレームワークが定められており、「リスクを見極め、対策し、監査して改善する」という流れをPDCAサイクルで行います。
2.2. 情報セキュリティ方針って何を指すの?主な構成要素
情報セキュリティ方針は、企業のトップが「セキュリティをどう守るか」大枠を示す文書です。
主な構成要素:
目的・範囲(どんな情報資産を対象にするか)
全社の責任体制(誰が責任を持ち、誰が運営するのか)
守るべきルールや基準(パスワード、アクセス制御、法令順守などの基本原則)
定期的な見直しや教育の仕組み
2.3. なぜ中小企業でも情報セキュリティ方針が必要なのか
取引先からの要請: 大企業や官公庁と取引する場合、「ISMS認証の取得やセキュリティ方針の開示」を求められるケースが増加しています。
リスク管理: 小さな組織でも、顧客データや従業員情報が流出すれば大損害になる可能性がある。
コンサル例: 「情報セキュリティ方針」を作り、最低限のルールを整えたことで、セキュリティ事故が大幅に減った事例は多数あります。
3. 【ステップガイド】情報セキュリティ方針をゼロから作る流れ
3.1. ステップ1:経営者の意図とリスク意識を明確にする
理由: 情報セキュリティ方針は「経営者がどんなリスクを重視し、何を守りたいか」を反映したもの。
実務: 経営会議などで「どんな情報資産を最優先で守りたいか」「どの程度の投資が可能か」を確認し、方針の基軸を決めます。
3.2. ステップ2:情報資産の洗い出しとリスク評価
アクション: 顧客データ、設計図、ソフトウェアソースコード、紙の書類など、すべての情報をリストアップし、「機密性」「完全性」「可用性」で重要度を評価。
成果: リストを基にして「もっとも守るべき情報」に優先度をつける。
3.3. ステップ3:セキュリティ目標・指標を設定する
ポイント: 例えば「メール誤送信ゼロ」「パスワード変更率100%」など、数値や具体的な指標があると社内浸透しやすい。
コンサル経験: 「うちの会社は情報漏洩ゼロを目指す」と掲げるだけだと抽象的。実際にどう測定するか、手順書や記録が必要。
3.4. ステップ4:方針案を作り、関係者レビューを行う
手順: 担当者がドラフトを作り、経営層や主要部門から意見をもらう。
目的: 一方的に作ると、現場が運用しにくいルールになりがち。多部門からフィードバックを得て、現実的な内容に仕上げる。
3.5. ステップ5:正式な承認を得て社内周知
承認: トップマネジメント(社長や役員)が最終承認を行い、**全社に向けて「これが会社の方針だ」**と宣言する。
周知: 朝礼、社内ポータル、掲示物などを活用して全社員へ周知し、新人研修でも説明するようにすると定着しやすい。
4. リスクアセスメントとの関連:方針が具体的になるポイント
4.1. どのリスクを方針で重点管理するのか?
解説: リスクアセスメントで「高リスク」に分類されたものほど、方針において強調しがち。
例: 在宅勤務が増えた企業では「リモート接続」関連のリスクが高いため、方針にも「VPN利用の徹底」「端末の暗号化」などを盛り込む。
4.2. 「機密性」「完全性」「可用性」を踏まえた目標設定のヒント
機密性: 盗まれて困る情報
完全性: 改ざんや削除されたら困る情報
可用性: 必要な時に使えなかったら困る情報
コンサル例: 大事なサーバーは「可用性」が最重要、顧客データは「機密性」が最優先…など優先度を考慮して方針に反映するとわかりやすい。
4.3. コンサル経験談:リスク評価があいまいだと方針が形骸化しがち
失敗例: リスクアセスメントを「適当に高・中・低」と分類しただけだと、方針がざっくりしすぎて具体的対策が決まらない。
改善: リスク基準を明確に設定し、得点や数値を使って評価すると説得力が増す。
5. 実務で使えるテンプレート公開:雛形から始めよう
5.1. 情報セキュリティ方針の一般的なテンプレート例
情報セキュリティ方針
『適切な情報管理を推進し顧客満足の更なる向上を目指す』
行動指針
1.情報資産の機密性、完全性、可用性を確実に保護するために
組織的、技術的に適切な対策を講じ、変化する情報技術や新たな脅威に対応する。
2.全社員に情報セキュリティ教育の実施と方針の周知徹底をはかり、
意識の高揚・維持に務める。
3.マネジメントシステム及び、情報セキュリティに関する目的を設定し、
定期的にレビューし、継続的に改善を実施し、維持する。
4.マネジメントシステムを実行・維持・改善していくために
管理責任者に責任と権限を委譲する。
202●年●月●日
株式会社●
代表取締役社長 ●● ●●
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5.2. テンプレート活用の注意点:自社固有のリスクや文化を反映する方法
コンサルアドバイス: 「テンプレートはあくまで雛形。まるごとコピペでは不十分」
対応: 自社の主要リスクや業務フロー、従業員スキルなどを踏まえて「不要な項目は削除」「追加のルールは挿入」するカスタマイズが必要。
6. 情報セキュリティ方針の必須項目:例文付き解説
6.1. 「目的と適用範囲」の明記
例文:
目的: 「当社は情報資産を適切に保護し、ステークホルダーの信頼を維持する」
適用範囲: 「全社の業務・システム、および関連する従業員・協力会社に適用する」
理由: 何を守るかがハッキリしないと、後々「これは対象外か?」という混乱が起きる。
6.2. 「責任者・組織体制」の定義
重要: 経営者や情報セキュリティ責任者、各部門の役割を明確化
実例: 「情報セキュリティ責任者はCISO(Chief Information Security Officer)が担う」「各部門長は部下の運用をチェックする」など
6.3. 「ルールや守るべき基準」の示し方
例: 「パスワードの長さは8文字以上」「持ち出しPCは暗号化必須」「退職者アカウントは速やかに削除」
コンサル視点: 全員が直感的に分かるレベルまで落とし込むと運用しやすい。
6.4. 「法令順守とリスク対応策」の盛り込み
法令例: 個人情報保護法、不正競争防止法など、業種によって異なる。
リスク対応策: 高リスク分野では具体的に「月1回の内部監査」など運用ルールに落とす。
6.5. 「定期見直し(レビュー)」の明記
理由: ISMSはPDCAサイクルで回すもの。1年に1度はリスク状況が変わっている可能性も高い。
例文: 「この方針は年1回以上、または重大な事故発生時に見直す」
7. 初心者が戸惑いやすい専門用語の解説
7.1. マネジメントレビュー、内部監査との関係
内部監査: 自社で行うチェック。「本当に方針や手順を守っているか?」を独立した視点で確認。
マネジメントレビュー: 経営層が監査結果や環境変化を踏まえ、方針や資源配分を再検討する会議。
7.2. PDCAサイクルって何?
Plan (計画)→Do (実行)→Check (評価)→**Act (改善)**の4段階を回すこと。
ISMSはこのPDCAを回し続け、常にセキュリティレベルを向上させる思想。
7.3. 機密性・完全性・可用性(CIAトライアングル)
機密性 (Confidentiality): 情報を必要な人だけが閲覧できる状態
完全性 (Integrity): 情報が改ざんや誤削除されず正しい状態
可用性 (Availability): 必要な時に使える(システムダウンしない)状態
7.4. インシデント・イベント・不適合の違い
インシデント: セキュリティ事故や問題(誤送信、ウイルス感染など)
イベント: インシデントに至らないが、注意すべき事象(怪しいメールを受信)
不適合: ISMSのルールと実際の運用が食い違っている状態、外部審査で指摘されることが多い。
8. 方針を社内に浸透させるコツ:運用段階で差が出るポイント
8.1. スローガンだけでは不十分!具体的な運用ルールを策定しよう
失敗例: 「情報を大切に扱います!」という抽象的フレーズのみ→社員は「どうすれば?」と戸惑う。
対策: 方針の下に「情報取り扱い規程」「パスワード規程」など具体的に落とすことで運用しやすくなる。
8.2. 社員教育や研修の進め方:事例と成功パターン
コンサル経験: 年1回の集合研修だけでは意識が薄れがち。定期的に短いミーティングやeラーニングを挟むと効果が高い。
具体例: 毎月1回「5分セキュリティトーク」を朝礼で行い、身近なセキュリティ事例を紹介する。
8.3. 定期的な朝礼・ミーティングでのリマインド
効果: 社員が自分ごととして考える時間が増え、インシデント対応のスピードや誤操作防止への意識がアップ。
例: 「メール添付前にパスワード設定してますか?」などをライトに呼びかける。
8.4. 経営者のコミットと率先垂範:トップが動くと周りも動く
理由: 経営者が「セキュリティはコスト」ではなく「企業を守る投資」と捉え積極的に支援すれば、部署間の連携やルール順守が進む。
アドバイス: トップ自身がパスワード変更や二段階認証を実行して見せると社員の認識も大きく変わります。
9. 成功事例:情報セキュリティ方針を活かしてISMSをスムーズに運用した企業
9.1. 製造業A社:方針をシンプルにまとめて社員の理解度が大幅アップ
背景: 従業員100名ほどでITリテラシーに差があった
取り組み: 10ページ以上の方針を2ページに圧縮、「外部へのデータ持ち出しは申請必須」など要点だけ強調
成果: 作業員にも分かりやすく、一気にセキュリティ事故が減少。外部審査でも「わかりやすい方針」と高評価。
9.2. IT企業B社:顧客にも公開し、受注拡大に成功した例
手法: Webサイトに「当社の情報セキュリティ方針」を公開し、セキュリティ対策を透明化
結果: 大手取引先が「方針内容がしっかりしている」と安心し、新規契約が増えた。
ポイント: 公開する際は「機密情報の扱い方」「責任者体制」を明示することで信頼が高まる。
9.3. サービス業C社:朝礼で方針の一部を読み上げ、インシデント激減
背景: 一部スタッフがルールを知らず、誤送信や紛失が頻繁
対策: 毎月1回、朝礼でセキュリティ方針のキーフレーズを繰り返し共有し、好事例を紹介
成果: ヒヤリハット事例が減り、全体の事故発生率が前年度より50%低下。
10. 失敗事例:形だけのセキュリティ方針で現場が混乱したパターン
10.1. 項目が多すぎて現実感がなく、社員の誰も守っていなかったケース
詳細: 20ページ以上の難解な文書を作って自己満足、現場は「どれが大事かわからない」と放置
コンサル提案: 重要事項をシンプルにまとめ、細かい手順は別規定やマニュアルに分ける。社員が読みやすい形にするのが基本。
10.2. 大きな理想ばかりで具体的手順が欠落
例: 「当社は情報漏洩を防ぐ」だけで、具体的対策や責任者を全く書いていない
問題: 監査で「どんな基準で防いでいるのか?」と問われ、不適合。後から急いで手順を作る羽目に。
10.3. 不明点を放置し、外部監査で指摘多数→再審査費用が膨大
悲劇: 方針上は「内部監査を年2回」と書きつつ、一度も実施しなかった→外部審査時に大量の不適合。再審査コストが予定外にかさむ。
対策: 定期的に管理者が「方針のルールは守られているか?」をチェックする仕組みを作るべき。
11. 情報セキュリティ方針策定後のメンテナンス:定期更新と見直し
11.1. 新規事業やシステム更新時の方針改訂タイミング
例: 新しいクラウドサービス導入、在宅勤務制度開始などリスクが変わるタイミング
アドバイス: 変更のたびに方針見直しは大変→年1回の大幅改訂と、緊急改訂を分けて管理すると効率的。
11.2. 毎年のリスク再評価で方針との整合性を確認
ポイント: リスクアセスメントで「新リスクが高い」と判定されれば方針も追記する
実例: 在宅勤務が増えたら「自宅端末のセキュリティ要件」「VPN接続ルール」などを方針に追加。
11.3. 改定した方針を社員に周知する方法(メール・SNS・掲示など)
注意: 「改訂版を社内メールで送っただけ」→多くの社員は見落としがち
効果: 社内SNS、ミーティングでの説明、イントラネットTOP表示など複数チャネルで通知すれば認知度が高まりやすい。
12. よくあるQ&A:ISMS 情報セキュリティ方針に関する疑問
12.1. 「方針と規程はどう違うの?」
回答:
方針: 組織全体がどの方向を目指すか、原則的な指針
規程(ルール): 方針を具体的に守るための詳細手順(例:「パスワードは8文字以上」「退職者アカウント削除」など)
12.2. 「項目が多すぎて書ききれない…どこまで盛り込むべき?」
目安: 大枠は方針に書き、詳細な手順は「情報セキュリティ規程」など別文書に分けると読みやすい。
コンサル経験: 目標・範囲・責任・遵守事項・見直し方法は方針に必須、それ以外は必要に応じて規程化。
12.3. 「契約先に方針を提出する際の注意点は?」
注意: 全てを公開すると逆にセキュリティホールがわかりやすくなるリスクも。一般公開用と社内詳細版を分ける企業もあり。
実例: 公開用には概要のみ、機密情報の扱い方や具体的リスク評価は非公開にする。
12.4. 「トップが内容を理解していないけど大丈夫?」
厳しい: トップマネジメントの理解がないと予算や人員が確保できず、形骸化しやすい。
提案: 経営者にセキュリティ事故の事例・損失額を示し、「守らないとどれだけリスクが大きいか」を伝えると意識が変わりやすい。
13. チェックリスト:自社のセキュリティ方針が十分か確認する
目的・範囲が明確になっているか?
責任者や組織体制が文書化されているか?
リスク評価の結果が方針に反映されているか?
ルールや遵守事項(パスワード、物理セキュリティなど)が具体的に書かれているか?
法令順守や定期見直しの仕組みが明文化されているか?
社内周知(教育やミーティング)方法が方針に示されているか?
トップの承認を得て、全社員がアクセスできる形で保管されているか?
14. まとめ:初心者でも安心!情報セキュリティ方針はこう作ろう
14.1. 記事の主要ポイントおさらい
ISMSにおける情報セキュリティ方針は、リスクアセスメントを基にした大枠のルールや目標を明示するもの
具体的ステップ: 経営者の意図確認→情報資産の洗い出し→リスク評価→方針案作成→承認・周知
テンプレートを使いつつ、自社独自のリスク・文化に合わせてカスタマイズが必須
14.2. 今すぐできるアクションリスト(テンプレート参照・リスク洗い出し)
テンプレートを参照して、社名・範囲・責任者を入れ替えて初稿を作る
主要情報資産とリスクをざっくり洗い出す→方針で守るべきポイントを明確に
社内関係者(IT担当、総務、各部門)からフィードバックをもらい、現場の声を反映
経営者に説明し、承認を得て全社員に周知する
14.3. 長期的にPDCAを回してこそISMS運用が安定する
大事: 一度方針を作って終わりではなく、年1回以上リスクや事業変化に合わせて改訂する
コンサル経験: 「最初は簡易版でOK→徐々に成熟度を高める」方が、現場が混乱せずセキュリティレベルが着実に上がる。
15. 参考リンク・関連資料
コンサル・認証機関の事例ページ
BSI, LRQA, JQAなどで導入事例が公開されている
補助金・助成金情報(自治体、商工会議所など)
情報セキュリティ対策やIT化推進の補助金・助成金を活用できる可能性あり
おわりに
情報セキュリティ方針は、ISMS運用の土台となる最も大切な文書です。ここがしっかりしていれば、リスク管理や社員の行動指針が明確になり、外部審査でも高評価を得やすくなります。
初心者の方は、まずテンプレートを使いながら自社のリスクや経営方針を整理するだけでも大きな前進。
一度作った方針は、毎年または状況変化のたびに見直しをしながら成熟度を高めましょう。
わからないことがあれば専門家に相談しつつ、地道にPDCAを回すことで、企業をしっかり守る「強いセキュリティ体制」が自然に育っていきます。
本記事が、あなたの企業がISMSを導入し、信頼性と安全性を高めるきっかけになれば幸いです。ぜひ活用してみてくださいね。
この記事の監修者情報
金光壮太 (ISOコンサルタント)
大手商社にて営業を経験した後、ISOコンサルティングに従事。ISO9001、14001、27001を中心に、各業界の課題や特性に応じたシステム構築や運用支援を行い、企業の業務効率化や信頼性向上に貢献。製造業や建設業など、多岐にわたる業界での豊富な経験を活かし、お客様のニーズに応じた柔軟なソリューションの提案を得意としている。
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