
▼ 目次
1. はじめに
1.1. 記事の目的と想定読者
この記事では、ISO14001の環境目標を上手に設定して、実際に成果を出すための考え方や方法をわかりやすく解説します。
こんな人におすすめ
これからISO14001を導入したいけど、環境目標の作り方が分からない
環境目標を立ててはいるが、形だけで実効性が見えない
中小企業や初心者ができる、シンプルでも効果のある設定を知りたい
この記事を読めば、自社に合った環境目標を作り、それを達成するための具体的なコツが見えてくるはずです。
1.2. なぜISO14001に“環境目標”が必要なのか
ISO14001は、会社が環境に対して配慮した活動を行うためのルールや仕組み(=環境マネジメントシステム)を整備する国際規格です。その中で「環境目標」は、実際にどんな数値や項目を改善するのかを明確にする大切な部分となります。
目的:
自社の環境への負荷を下げる(例えばCO2や廃棄物の削減)
コスト削減(エネルギー・水など資源の節約)
法令を守り、地域社会から信頼される企業イメージを確立
実際にコンサルをしていると、「環境目標があいまいだと、現場の行動もあいまいになりやすい」と感じます。逆に、数字で分かりやすい目標を設定すると社員のモチベーションが上がり、短期的にも効果が出やすいのです。
2. ISO14001の基本:環境目標とは何か?
2.1. 環境マネジメントシステム(EMS)における位置づけ
ISO14001では、環境方針に基づいて会社が「どんな方向で環境保護を進めるか」を決めます。その具体的な計画が「環境目標」です。
例: 「CO2排出量を昨年度比5%減らす」
例: 「産業廃棄物を○○kg削減する」
こうした目標があれば、どこを頑張ればよいか会社全体で共有できます。また、目標がないと「何をどれだけ改善すればいいかわからない」状態になりがちです。
2.2. 環境方針や計画とのつながりをやさしく解説
環境方針: 「我が社は環境保護に努め、CO2を削減していく」というような大枠の宣言。
環境目標: 環境方針を細かく落とし込み、「CO2を年5%削減」など、数値や期限を定める。
環境計画: その目標を達成するための行動計画(例えば、LED導入、稼働時間削減など)をまとめたもの。
この3つはセットになって初めて計画的に環境パフォーマンスを上げていくことができます。
3. 初心者でもわかる目標づくりのステップ
3.1. ステップ1:自社の環境側面と法令を把握しよう
環境側面: 会社の活動が環境に与える影響のこと(CO2排出、廃棄物、騒音、排水など)。
具体例: 製造業ならエネルギー消費や排水、建設業なら建設廃棄物、サービス業なら紙使用量や電気使用量など。
なぜ大事?: まず自社がどんな環境側面を持っているかを理解しないと、目標をどこに設定すれば良いか決まらない。
法令: 大気汚染防止法、水質汚濁防止法、廃棄物処理法など、自社に適用される法令をチェックすると優先度の高い目標が見えやすい。
3.2. ステップ2:リスクや機会のリストアップ
リスク: 例えば「使用している溶剤が有害で、排出時に違反を起こすリスクがある」など。
機会: 逆に「省エネ設備に切り替えれば電気代を節約しながらCO2削減もできる」など。
ISO14001では、「リスクと機会」を明確にして、その中から目標のテーマを選び出します。
3.3. ステップ3:優先順位を決めて目標を数値化
優先度の決め方:
法令違反のリスクが高いもの
環境負荷が大きいもの(CO2など)
お金の節約につながるもの(省エネ・廃棄物削減)
目標は数値化: 「CO2排出量を○%削減」「廃棄物を○kg削減」など、数字でわかる形にする。
コンサル経験: 数字や期限がないと、スタッフが「どこまでやればいいのか」分からず動きが鈍る。逆に1年単位など具体的な期限があるとやる気が高まる。
3.4. ステップ4:目標を達成するための細かい行動計画を作る
「CO2を5%削減」と掲げても、具体的手段がなければ進まない。
例: 「空調の設定温度を1℃上げる」「休憩時間にエアコンの送風モードを使う」「LED照明を半分導入する」「フォークリフトのアイドリング停止を徹底する」など。
詳しい行動を決めたら、その担当者と期限をはっきりすることが大切です。
4. 具体的な環境目標の例:CO2・廃棄物・水使用など
4.1. CO2削減(電気や燃料使用)
例: 「今年度の電力使用量を前年度比5%削減」
対策案: LED照明、機械の稼働時間調整、動力源の高効率化など
ポイント: CO2は数字にしやすく、削減効果も分かりやすい。省エネでコストも下がる一石二鳥の領域。
4.2. 廃棄物削減(リサイクル率・埋立率など)
例: 「年間産業廃棄物埋立量を10%減らす」「リサイクル率を5ポイントアップ」
対策: 分別徹底、再生資源の活用など
コンサル視点: 廃棄物削減で処理コストが下がり、収益面でもプラスになった企業も多い。
4.3. 水使用量・排水負荷の低減
例: 「製造工程での水使用を3%減らす」「排水基準を常にクリアし、苦情ゼロ」
手段: 冷却水の循環再利用、節水ノズル、排水浄化設備の定期点検
ヒント: 水道料金削減、地域の水資源保護にも貢献。
4.4. 騒音・振動の軽減など物理的環境側面への目標
例: 「騒音レベルを○○dB以下に抑える」「苦情件数ゼロ」
対策: 防音壁、機械メンテナンス、夜間稼働の制限など
メリット: 近隣との良好な関係を維持し、環境トラブルを回避できる。
4.5. 法令遵守・苦情ゼロへの取り組み
例: 「年間法令違反ゼロ」「顧客・地域からの環境苦情をゼロにする」
手段: 法令リストを定期更新、監視測定の強化、問い合わせ窓口の整備
結果: 社会的信用のアップ。これが取引先や行政からの信頼につながる。
5. 最適な設定方法のポイント:SMARTを意識しよう
ISO14001のコンサルティングでよく使われるフレームワークがSMARTです。環境目標を作るとき、この5つの要素を考えると成功しやすくなります。
5.1. Specific(具体的)
「CO2削減」ではなく「CO2排出量を○t減らす」といった形にする。
5.2. Measurable(測定可能)
値として測れることが大切。メーターや月次データなど記録しやすい方法を決める。
5.3. Achievable(達成可能)
無理な数字だと社員のやる気がなくなる。手の届く範囲の目標を設定する。
ただし簡単すぎるのも進歩がないので、少し高めのラインを狙うのがコツ。
5.4. Relevant(関連性がある)
会社のビジネスや環境方針に関係ない目標を立てても意味がない。
業種特性や法令リスクを踏まえた目標を優先。
5.5. Time-bound(期限がある)
「いつまでに」という期限がないとダラダラになりがち。1年後、3か月後など具体的な期日を設定する。
6. 初心者が押さえておきたい改善のコツ
6.1. 小さな成功から始めて拡大する(スモールスタート)
大きな目標をいきなり掲げても、達成が難しく気持ちが折れることがある。
まずは小さな改善(例えば照明の節電10%)などで結果を出し、社内の盛り上がりを作る。
6.2. 社員を巻き込む仕組み:朝礼・ミーティングでの共有
コンサル実例: 「月1回の環境ミーティングで目標達成状況を共有」「改善アイデアを募る」と、社員全員が自主的に協力してくれるようになる。
誰か一人が頑張るより、全員参加の意識作りが環境目標には大切。
6.3. データ管理を簡単にするツールやシステムの活用
エクセルでもいいが、クラウドツール(Googleスプレッドシートや専用ソフト)を使えば、社員みんなが同時に更新・閲覧できて便利。
これにより「今月はどれぐらい削減できたか」をリアルタイムに見える化し、次のアクションが早まる。
6.4. PDCAサイクルで定期的に進捗をチェック
月1回または四半期ごとに目標の進捗状況を確認し、問題があればすぐ修正する。
長期間放置すると「いつの間にか達成が難しくなっていた…」となるケースがある。
7. 実例紹介:中小企業が立てた環境目標とその成果
7.1. 製造業A社の電力削減目標:年5%ダウンを半年で達成した話
背景: 電気代が経営を圧迫していたため、「電力使用量を年5%減らす」と決定。
やったこと: LED照明化、空調制御システム導入、不要時の機械停止ルール徹底など
結果: 半年ほどで目標を達成し、電気料金で年間約100万円節約。CO2排出も同時にダウン。
7.2. 建設業B社の廃棄物リサイクル率アップ:コストダウンも同時に実現
目標: 「工事現場から出る廃棄物をリサイクル率50%以上にする」
施策: 作業員への分別教育、リサイクル業者との連携強化、再生資材の再利用など
成果: 処分費用が20%削減されただけでなく、再資源化を進めたことで「環境に配慮する建設会社」として地元自治体から表彰。
7.3. サービス業C社の社内キャンペーンで紙使用量を半減
課題: オフィスで無駄な印刷が多く、用紙とインク代が馬鹿にならない状態。
キャンペーン: 「ペーパーレス月間」と称してPDF化を推進、1ページに複数スライド印刷などルールづくり。
結果: 目標にしていた紙使用量50%削減をほぼ達成。社員も「こんなに紙を無駄に使っていたんだ」と意識改革が進む。
8. よくある失敗例と回避策
8.1. 目標が漠然として分かりにくい:定量化で解決
失敗例: 「CO2を減らす努力をする」など
回避: 「前年より○%減」など定量化して、目標の達成状況が数字でわかるようにする。
8.2. 達成不可能な高すぎる目標を掲げてモチベーション低下
失敗例: 「今期でCO2を半減!」と無理なゴール
回避: 段階的に可能な範囲で設定し、「小さな成功」を積み重ねる。
8.3. 社長が関与しないまま現場任せで形骸化
失敗例: 社長がノータッチだと予算も決められず、行動に限界が…。
回避: 社長や経営層が目標値を承認し、定期的に報告を受ける仕組みにする。
8.4. フォローアップ不足で毎回同じ指摘を繰り返す
失敗例: 達成したかどうかを次の年まで確認しない。改善が停滞。
回避: 進捗を月次や四半期でチェックし、都度修正やアドバイスをする。
9. 社内への周知と運用方法
9.1. 目標を分かりやすく掲示:見える化のメリット
事例: 社内に「今月の電力使用量」グラフを掲示、みんなが省エネ意識を持ちやすい。
見える化することで、達成度合いが身近に感じられ、モチベーションが続く。
9.2. 社員教育:全員が理解するための短い研修や説明会
大事: 環境担当者だけ頑張っても限界がある。社員全体が理解してこそ成果が出る。
短い研修: 15~30分程度でOK。「目標の理由」「どんな行動が必要か」をわかりやすく伝える。
9.3. 活動結果を社内報やSNSで共有してやる気アップ
SNS利用: 「今月○○kg削減できました!」など会社の公式SNSや社内SNSに投稿すると、社員同士で喜びを共有しやすい。
報酬制度や表彰制度を設けるのも有効(「省エネ提案優秀賞」など)。
10. 費用や時間を抑えるためのヒント
10.1. 小規模のExcel管理でもOK:専用システムは必須じゃない
実務例: Excelで電力使用量や廃棄物排出量を毎月入力し、グラフ化するだけで十分PDCAを回せる。
ITツール導入が難しくても、最初はシンプルな表計算でスタートしましょう。
10.2. 補助金や自治体の支援策の活用例
自治体の補助金: LED照明や省エネ設備への導入費用を補助するケースが多い。
例: 「CO2削減補助金」で設備更新コストの1/3が支援された事例もあるので、地域の商工会や環境関連部署に問い合わせてみると良い。
10.3. コンサルタントに丸投げせず、部分的サポートを受ける方法
なぜ大事? コンサルに全部任せると費用が高くなる。
ヒント: 目標設定の初期段階だけコンサルにアドバイスを求め、あとは社内で運用するパターンもある。短期的なアドバイザリー契約でコストを抑えられる。
11. 外部審査との関連:マネジメントレビューで目標を見直す
11.1. 外部審査で見られるポイント:数値の進捗と実施証拠
ISO14001認証を受ける場合、審査員は「環境目標とその達成状況」「改善アクションのエビデンス」を確認する。
書類や記録、実際の現場を見て「本当にPDCAを回しているか?」を評価されます。
11.2. マネジメントレビューで適宜目標を修正し、もっと良い数字を狙う
マネジメントレビュー(MR): 経営層が定期的に環境目標の進捗や問題点を確認し、次の手を打つ仕組み。
例えば「半年で目標をクリアしたから、もう少し高い目標に更新しよう」といった改善アクションが可能です。
12. Q&A:初心者が疑問に思いやすいこと
12.1. 「環境目標は何個ぐらい設定すればいい?」
目安: 2~5個程度が多い。あまり多すぎると管理しきれず、少なすぎると改善余地が見えにくい。
重要なのは会社にとって本当に大切な部分を優先すること。
12.2. 「達成できなかった場合は認証に影響する?」
回答: 直接的に落ちるわけではありません。ISO14001は「目標を継続的に追いかける仕組み」が大事なので、達成できなかったときに原因分析や次の対策をしっかり行えば問題なし。
12.3. 「小さな会社でもCO2削減の数字って管理できる?」
可能: 主に電気・ガス・燃料の使用量を1か月ごとに集計すれば、CO2排出量の概算は計算可能。自治体やWEBに排出係数が公表されているのでかけ合わせればOK。
12.4. 「成果が見えにくい場合どうすればやる気を保てる?」
対策: 目標を小分けにして、段階的に達成感を得られるようにする。月次の変化をグラフで見せて社員が共有する。
表彰制度やインセンティブを設けるなど、「成果をみんなで喜ぶ」仕組みがモチベ維持に効果的。
13. まとめ:環境目標を上手に作って運用することでISO14001を活かそう
13.1. 記事のポイントおさらい
環境目標はISO14001の中核であり、設定があいまいだと結果が出にくい
SMART(具体的・測定可能・達成可能・関連性・期限)を意識する
小さな成功から始め、PDCAを回して継続的に改善していく
13.2. はじめは簡単な目標でも続けることで大きな成果につながる
最初は「電気使用量を前年より3%削減」など取り組みやすい目標でOK。
達成したら次は5%、10%と段階的にレベルを上げ、経営にもメリットをもたらす大きな効果を狙いましょう。
13.3. 次のアクションリスト:すぐに始められる取り組み
社内で環境側面を洗い出し、リスク・機会をリストアップ
優先度が高い項目を数値目標にする(例: CO2、廃棄物、水使用など)
行動計画をシンプルに作り、担当者と期限を決定
月次や四半期で進捗を共有し、ちょっとした成果もみんなで喜ぶ
14. 参考情報・関連リンク
ISO14001規格の解説書・公式サイト
ISO公式サイト
日本規格協会(JSA)
中小企業の省エネや廃棄物削減事例を紹介するサイト
県や市の環境部門、商工会議所の事例集などが参考に
環境省や自治体の補助金・支援策のリスト
環境省
地方自治体の公式サイト、商工会議所等
おわりに
ISO14001の環境目標は、会社が環境を守るための具体的なゴールを示す重要な要素です。
まずはシンプルな目標を設定し、行動しながらPDCAを回す
その過程で社員の意識が高まり、コスト削減や社会的信用のアップなど経営面でも成果が期待できます
初心者の方や中小企業でも、目標をしっかり作って継続的に運用すれば必ず効果が見えてきます。ぜひ今回ご紹介したステップや事例を参考に、自社に合った環境目標を立ててみてくださいね。継続していくうちに、きっと会社全体が環境にも経営にもプラスを感じられるようになるはずです。
この記事の監修者情報
金光壮太 (ISOコンサルタント)
大手商社にて営業を経験した後、ISOコンサルティングに従事。ISO9001、14001、27001を中心に、各業界の課題や特性に応じたシステム構築や運用支援を行い、企業の業務効率化や信頼性向上に貢献。製造業や建設業など、多岐にわたる業界での豊富な経験を活かし、お客様のニーズに応じた柔軟なソリューションの提案を得意としている。
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