ISMSのトップマネジメントとは?経営層が担う責任と導入メリットを初心者向けに詳しく解説!
- 【監修者】金光壮太(ISOトラストのコンサルタント)
- 3月30日
- 読了時間: 12分

▼ 目次
1. はじめに
1.1. 本記事の目的と想定読者
ISMS(ISO27001)を導入するにあたり、トップマネジメント(経営層)の役割がとても重要だとよく言われます。これは、情報セキュリティ上のリスクを全社的に管理し、必要なリソースや方針を決定できるのは経営層しかいないからです。
この記事の目的
ISMSを運用するうえでトップマネジメント(経営層)が担う責任や役割をわかりやすく整理
経営層が関わることで得られるメリットと、本当に必要な“やること”を解説
形骸化せずに企業のリスクを下げ、社員の意識を高めるための成功・失敗事例やコンサル視点のアドバイスを紹介
想定読者
これからISMS認証(ISO27001)を取得しようと計画している企業の経営者や役員
ISMSの導入や運用を任された管理者・担当者
経営側のコミットメントが不足し、形骸化の危機を感じている人
1.2. “ISMSのトップマネジメント”とは?基本的な概念
ISO27001規格: 情報セキュリティマネジメントシステムの国際規格で、全社的なリスク管理と継続的改善を求める。
トップマネジメント(経営層): 代表取締役や役員クラスなど、会社の方向性と資金を最終決定できる人たち。
初心者向け用語解説:
マネジメントレビュー: 経営陣がISMSの実施状況やリスク対応を確認し、改善指示を出す場
リスクアペタイト(リスク許容度): 企業として“どの程度までのリスクを受容するか”の基準
1.3. 本記事で得られるメリット
トップマネジメントに求められる責任や役割を体系的に理解できる
導入メリット(リスク低減・社員意識UP・取引先信頼度向上)を把握し、経営判断の参考にできる
実務での成功・失敗事例やコンサル経験を通じて、形骸化しない運用のヒントを得られる
2. なぜトップマネジメントが重要なのか?
2.1. 経営層のコミットメントが必要な理由
ISMSでは全社的な情報資産を守るための仕組みを整えます。システム投資や研修費用、リスク対応策の実施には、予算や最終決定権を持つ経営層の後押しが不可欠です。
全社視点でのリスク管理: 部署レベルでは対処しきれない横断的な課題(ネットワーク分割、パスワード管理ポリシーなど)が多い
コンサル視点: 経営層が“うちはコストをかけたくない”と形だけの運用を求めると、スタッフ任せになり形骸化しやすい
他社事例(製造業A社): 役員が「ISMSを会社全体で取り組む!」と宣言→ 一気にリスク対策が進み、ランサムウェア事故を未然に防止
2.2. ISO27001要件とトップマネジメントの関連
ISO27001では、経営層(トップマネジメント)がリーダーシップを発揮するよう要求している
具体的要求: ISMS方針策定、リスクアセスメント結果への承認、マネジメントレビューへの参加 など
IT企業B社成功例: 役員レベルが“インシデント削減”をKPIに設定→ 各部署が能動的に取り組み、フィッシング被害が9割減少
2.3. ビジネス的メリット
リスクを減らす: 漏えい・ウイルス被害などの頻度やダメージを抑え、対応コストを節約
取引先からの信用UP: ISMS認証があると「セキュリティ意識が高い会社」と認識されやすい
事例(サービス業C社): ISMS認証取得後に公共案件や大手取引が増え、売上拡大→ 経営陣がさらにセキュリティ投資を拡充
3. トップマネジメントが担う責任と具体的なやること
3.1. 情報セキュリティ方針の策定と周知
活動内容: 経営層が「企業としてどんな情報をどう守るのか」を明文化→ セキュリティポリシー
実務例: 「お客様データを最優先で保護」「物理セキュリティにも投資する」など具体的な方針を掲げ、全社員に共有
メリット: 方針があると社員は“何を目指すのか”が明確→ ミスや迷いを減らす
3.2. 経営資源(予算・人員)の確保
理由: リスク対策にはシステム導入、研修費、コンサル費などが必須→ 実行には予算と権限が必要
コンサルTIP: トップが率先して投資を決めると、現場が積極的に対策を導入しやすい
事例(製造業A社): 役員が“サーバー老朽化は危険”と判断し、予算つけてクラウド移行→ ウイルス感染件数が激減
3.3. リスクアセスメントレビューとマネジメントレビュー
リスクアセスメント: 各部署から集めた脅威・脆弱性を経営層が最終判断し、優先度を決定
マネジメントレビュー: 半年〜年に1回、経営会議でISMS運用状況をチェックし、改善指示を出す
コンサル視点: 経営者がレビューしないとリスク評価が現場止まりになり、本当に重大なリスクに投資されないケース多発
3.4. 事故発生時の最終意思決定
活動内容: 大規模インシデント(漏えい、システム停止)が起きたとき、会社としての公表・損害賠償対応を決める
事例(サービス業C社): 不正アクセス疑いで社長が早急に発表→ 社会的信用を維持し、顧客離れを防げた
ポイント: “トップが責任を負う”という姿勢が、社員の迅速な報告やリカバリ行動を促す
4. ISMS導入メリット:トップマネジメントが関与すると得られる効果
4.1. リスク管理の可視化・強化
具体例: パスワード使い回し率、バックアップ未実施数などを数字で把握→ 投資優先度を設定
他社成功例: IT企業B社がパスワード管理ツール導入をトップが決断→ インシデント報告が大幅減
メリット: 経営側が“今どのリスクが大きいか”を把握し、トラブル防止に向けた具体策を講じやすい
4.2. 社員の意識向上とセキュリティ文化の定着
教育・演習: フィッシング対策研修、インシデント訓練などを経営層が“企業方針”として推進
現場への影響: トップが本気だと社員も“やらされ感”ではなく自発的に協力
事例(製造業A社): 毎月の朝礼で役員が“セキュリティ最優先”を強調→ 現場の意識が一気に高まり、内部不正も激減
4.3. 社外信用度UPとビジネス拡大
ISO27001認証: “セキュリティに力を入れている会社”とアピールでき、入札や契約で有利
成功談: サービス業C社がISMS取得後、大手企業と連携が増えて売上も向上
経営視点: 投資コストはかかるが、長期的リターン(事故防止・顧客拡大)が期待できる
5. 導入ステップ:トップマネジメントが押さえる“やること”一覧
5.1. スコープ設定とプロジェクト体制づくり
スコープ(適用範囲): どの部署・拠点・システムをISMSに含めるか、経営層が最終決定
プロジェクト体制: ISMSリーダーやメンバーを任命し、必要な権限と予算を付与
コンサル視点: いきなり全社を含めると工数が膨大→ 最初はコア領域から始め段階的に拡大する方法も
5.2. リスクアセスメントと管理策の承認
活動内容: 各部署で脅威・脆弱性を洗い出し→ 経営層が優先度を承認→ 対策にリソースを割り振る
経営層の役割: リスク評価結果を承認し、“どこに投資するか”を判断
成功例(製造業A社): トップが“古い機器に脆弱性”と判断→ 重要設備を更新し、ウイルス被害を防止
5.3. 文書化・運用・内部監査
文書化: セキュリティポリシー、手順書などを作成して全社員に周知
運用: 日常業務でルールが守られているか定期的にチェック
内部監査: 現場へのヒアリングやログ確認で問題を発見→ 経営層が対策を指示
5.4. 審査と認証取得(初回/サーベイランス/更新)
初回審査: Stage1(文書)、Stage2(現場)を経て認証
サーベイランス: 1年に1回、運用継続を確認
更新審査: 3年ごとにフル審査し、引き続き認証を維持するか判定
6. 形骸化しないための注意点:トップマネジメントの視点
6.1. リスクアセスメントを本気でやる
現場ヒアリング: 一方的に書類を埋めるのでなく、現場担当者の困りごとや過去インシデントを共有
優先度付け: 経営層がリスク許容度を決定→ “ここは最優先で予算投入、ここは中期対策”などメリハリ
事例(IT企業B社): リスクリストをExcelで管理し、経営会議で優先度を決める→ 不要投資を避け、成果を最大化
6.2. 社員教育と周知徹底
トップのメッセージ: 「セキュリティは会社の命綱」「一人ひとりが守るべき課題」と強調
研修・演習: フィッシングメール演習、パスワード管理、在宅勤務時のリスク などを定期実施
コンサルTIP: 経営層が研修に参加したり、結果をレビューするだけで社員の真剣度が上がる
6.3. PDCAサイクルを真に回す
Plan-Do-Check-Act: 定期的な監査やレビューで問題を発見→ 改善策を実行→ 次回に再確認
ポイント: 経営層がPDCAを軽視すると、改善が進まずサーベイランスや更新審査で大量指摘
成功例(サービス業C社): 月1回のインシデント検討会を役員も参加→ ミスが早期共有され、再発防止策が迅速
7. Q&A:ISMSのトップマネジメントに関する疑問解消
7.1. 「経営層が忙しくて関与が少なくても大丈夫?」
回答: 最低限、方針策定や予算承認、マネジメントレビューには必ず参加すべき。形だけの承認では現場が動きづらい
コンサル例: ある企業は社長の時間が取れず、認証取得に1年以上遅れ→ サーベイランスでも指摘が連発
7.2. 「費用対効果が見えにくい…」
回答: インシデント被害額や賠償コスト、信用失墜リスクを試算→ “これを防げれば投資回収できる”と示す
他社事例: IT企業B社が社員のトラブル対応工数を測定→ ISMSで工数が半減し、生産性向上を数字で証明
7.3. 「小規模企業でもトップマネジメントが必要?」
回答: はい。むしろ小規模だからこそ社長や役員の判断が直接反映しやすい。1回の事故が致命傷になりかねない
TIP: 経営者自身がセキュリティの要点を把握し、社員を説得する姿勢が成功のカギ
7.4. 「コンサル丸投げでいいの?」
回答: 形骸化の典型。トップがコミットせず書類だけ整えても、更新審査や事故対応で苦労する。
コンサル視点: 部分的な支援ならOKだが、最終的には経営層の覚悟と社内体制が不可欠
8. 失敗事例と回避策
8.1. 経営層の不在で適用範囲が曖昧
原因: 部署側だけでスコープを決め、後から経営層が「そこはコスト過剰」と否定→ 混乱
回避策: 初期段階で経営層と議論し、事業戦略やリスク優先度に合ったスコープ設定
8.2. 認証取得後に“放置運用”
原因: “合格”がゴールになり、サーベイランス直前だけ慌てる形
回避策: 月次や四半期でインシデントを確認し、マネジメントレビューで常に対策を更新
8.3. 予算承認されず、対策できない
原因: 経営層がセキュリティ事故の影響を軽視→ “必要ない”と判断
回避策: リスク試算(被害額や信用失墜)を示し、経営層に投資判断を促す
9. 他社事例:トップマネジメントが主導して成功した企業
9.1. 製造業A社:役員が音頭を取り、ランサム被害を回避
背景: 2年前にウイルス侵入で生産停止→ 経営層が危機感を持ちISMS導入
やり方: リスクアセスメントで設備更新を優先決定、パッチ管理や社員教育を強化
成果: 別のランサムウェア攻撃も早期検知し被害ゼロ→ 審査でも“経営層の積極コミット”と高評価
9.2. IT企業B社:トップマネジメント会議でPDCAを加速
特徴: 毎月1回、社長・役員・ISMSリーダーが会議→ インシデント報告と改善策を即承認
メリット: 部署からの要望がトップにすぐ届き、予算や方針がスピーディーに決定
更新審査: 指摘事項が少なく、継続的に“運用が機能している”と認められ形骸化を防げた
10. まとめ:ISMSのトップマネジメントとは?経営層が押さえるべき責任と導入メリットを初心者向けに詳しく解説!
10.1. 記事の総括:ポイントの再確認
トップマネジメントの役割: ISMS方針の策定、リスク優先度決定、予算承認、インシデント時の最終判断
導入メリット: リスク管理強化、取引先や顧客からの信頼UP、社員意識向上→ PDCAを回し形骸化を防止
やること: スコープ設定、リスクアセスメントレビュー、内部監査・審査対応、事故発生時の即決
成功のコツ: 本気のリスク評価×社員教育×経営層のコミット→ 失敗企業は“形だけ運用”でインシデントや審査不適合が多発
10.2. 次のアクション:初心者が押さえるべきステップ
経営層とスコープを協議: どこを優先的に守るか、コストと効果をすり合わせ
リスクアセスメント: 部署ヒアリングやインシデント記録の分析→ 経営層が承認
文書化・社員教育: ポリシー、マニュアルをわかりやすく作り、研修で浸透
内部監査→ 審査(Stage1,2): 問題点を修正し、合格を目指す
サーベイランス&更新審査: 認証後もPDCAを継続し、常にリスクを見直す
あとがき
ISMS(ISO27001)の導入において、トップマネジメント(経営層)の関与は運命を分けるほど重要です。経営層が本気でリスクアセスメントに取り組み、必要な予算と人員を確保すれば、情報漏えいなど重大インシデントを未然に防ぎ、企業の信用度を大きく高めることができます。本記事の具体的な責任や導入ステップを参考に、ぜひ経営者や役員自身が積極的にISMS運用をリードし、“形だけの規程”で終わらせず、本質的なセキュリティ強化を実現してください。セキュリティ事故を減らせるだけでなく、社員の意識向上や大手取引の獲得など、ビジネス面でも大きなメリットが得られるはずです。
この記事の監修者情報
金光壮太 (ISOコンサルタント)
大手商社にて営業を経験した後、ISOコンサルティングに従事。ISO9001、14001、27001を中心に、各業界の課題や特性に応じたシステム構築や運用支援を行い、企業の業務効率化や信頼性向上に貢献。製造業や建設業など、多岐にわたる業界での豊富な経験を活かし、お客様のニーズに応じた柔軟なソリューションの提案を得意としている
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